沈黙の春



社会人になりたての頃に発行されたレイチェル・カーソンの著書に『沈黙の春』があった。小説というよりは農薬の危険性を調査研究して摘発した専門書で、野放しの農薬散布の結果、生物が死滅し鳥も鳴かなくなったというのが題名の由来である。良く知れ渡った書名にも拘わらず、一般人で実際に読んだ人は少なく、実は私もその一人である。


ただ、生物が死滅して静寂になる地球という警鐘だけに、その怖さ加減が伝わって来る。その「沈黙の春」が主人公を農薬から新型コロナウィルスに替えた社会がやって来た。テレビや新聞報道の写真を見ると、慢性混雑の大阪道頓堀や通天閣のある新世界はガラガラ。プロ野球のオープン戦の観客席や動物園、各テーマパーク正門前も人影がない。文字通り、『沈黙の春』の光景そのものである。


一方、人影ばかりではない。スーパーやドラッグストアの商品棚からトイレット・ペーパーやボックス・ティッシュが忽然として消えた。マスクから端を発した品切れ、買い占め騒動の結果であるが、その流れがアルコール消毒薬や冷凍食品、即席麵、果ては主食のコメにまで及んでいる。


消毒用アルコールの代品として、酒の量販店でアルコール度数の高いウォッカにも手が伸びているという。時代劇で刀で切られた武士が焼酎で消毒される光景を目にすることがあるが、飲料アルコールではウィルス菌を消毒する効果はないと専門家は明言している。


生産業者は在庫は豊富にあり、供給体制に影響はないと声をあげているが、ネットを通じたデマと興味本位で報道するメディアの声に隠されている。英語の“chaos”とか“stampede”という言葉が頭をよぎる程の混乱・慌てふためきで、パニックに近い現象である。


誰もが一時的な社会現象であることは理解している。それでも目に見えない不安に弱いのが人間である。嵐が過ぎるのをじっと待つしかない。




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