非情な新型コロナ菌



NYタイムズの訃報欄に昨日こんな記述があった。


「ジョセフ・ファインゲルト(97)。ホロコースト生き残りで、アカデミー賞ノミネート作品“ジョーのバイオリン”のモデルになった人。コロナウィルスによる合併症で死亡」


人間、亡くなる時は夫々の原因があるが、特に高齢者の場合は、こんな死に方をするために戦前から戦後の生活難を艱難辛苦して生きて来たのかと思うと胸が痛くなると同時に人生が空しく感じられる。この記事の場合、ホロコースト生存者とあると尚更の感を受ける。「ジョセフ・ファインゲルト」の名も、映画「ジョーのバイオリン」も知らないが、NYタイムズ記事を読み続けた。


ファインゲルトはポーランド生まれで17才の時にナチスが侵攻し父親と共にロシアに逃げたが捕らえられ、彼はシベリア、父親はアウシュヴィッツの夫々の収容所に拘束された。ファインゲルトは6年半の強制労働の後、解放されて西独へ移動し、同じくアウシュヴィッツから救出された父親と再会を果たした。母親は幸いにしてポーランドで無事で手紙の交換を続け、いずれ家族全員での再会を誓い合った。しかしその機会は結局実現せず、母親からグリーグ作曲のソルベイグの歌の歌詞を引用して再会の希望を誓った手紙を最後に彼女は死去してしまった。


ファインゲルトは西側のドイツに移った時、蚤の市で手持ちの煙草1カートンと中古のバイオリンとを交換入手した。バイオリンは彼の生来の伴だったのである。彼のその後の人生はこのバイオリンと共にあった。米国に移住して93才になったある時、筋収縮で指が動かなくなり、長年愛用のバイオリンが弾けなくなった。当初は売却しようと思ったが、ニューヨークの音楽院で才能がありながら経済的な理由で楽器が持てない子供達に贈与する運動があると聞き、即座に愛用のバイオリンを無償提供した。贈与されたのは当時12才のドミニカ出身の少女ブリアンナだった。彼女はファインゲルトと楽器の由来を聞いて涙した。


数年後、彼女がファインゲルトに初めて逢った時、彼の面前で胸の張り裂けるようなソルベイグの歌を披露し、彼は茫然と突っ立って彼女の演奏を聴いたという。


この話を聞いたある脚本家が24分の短編映画、「ジョーのバイオリン」を作り試写会を行った所、ハンカチを取り出して咽びながら見た人が続出した。この作品は2017年のアカデミー賞短編記録映画部門にノミネートされた。


訃報記事だからこれ以上の詳しい説明はない。ただ、実話なのである。こんな感動的な人生を経た人にもコロナウィルスは容赦なく犠牲にする。


別の新聞でこんな見出しがあった。「日曜礼拝の日、ある牧師が『信じなさい。神は如何なる病をも治癒してくれる』と説教した。コロナウィルスはこの牧師を感染死させてしまった」。



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