一時的な社会運動に抹殺される歴史的遺産



文学作品の中で稀代の名作とされ、映画史上では最高傑作作品として80年に亘り高い評価を受けていた「風と共に去りぬ」が、南北戦争前の奴隷制度と人種差別を美化するものとして、米国の動画配信作品から取り下げられることになった。米国の白人警察による黒人市民の殺人事件から発展した全米規模の人種差別撲滅デモなどによる社会変化と価値観の移り変わりで、文字通り「抗議の嵐と共に去った」作品となった。


「風と共に去りぬ」は、ヴィヴィアン・リー扮するスカーレット・オハラとクラーク・ゲーブル扮するレット・バトラーを主人公とする、誰もが知っている壮大なラブロマン・ストーリーである。南北戦争前後の南部を舞台とし、奴隷制度の恐ろしさや黒人の描写が背景にある。映画にはマミーと呼ぶ黒人家政婦が登場するが、今回の騒動で一挙に人々の脳裏に躍り出た。俳優はハティ・マクダニエルで、白人に虐げられるも従順に仕事をする役割を見事に演じ、黒人として初めてアカデミー賞助演賞のオスカー像を手にした。しかし、授賞式では白人の共演者達と離れた後ろの方のテーブルに着かされていたという。「映画を離れた私生活での行動も、マミーのイメージが終生付いて回った程の名演だった」(ロサンゼルス・タイムズこちら)とある。


今回の人種差別抗議行動は、「風と共に去りぬ」の映画作品を葬り去っただけでない。ヴァージニア州リッチモンドに建っていた南部連合ジェファーソン・デービス大統領の銅像が引き倒され、ボストン・ヴァージニア・マイアミなど米国各地に建っていたコロンブス新大陸発見者の銅像も引きずり落とされたり、塗料をかけられたり、首を落とすなどの狼藉が相次いで発見された。


米国での黒人暴行抗議行動は欧州の各地に飛び火し、ベルギーでは、旧植民地コンゴで圧政を敷いた国王レオポルド2世の銅像が各地で放火、塗料、破壊などで損傷された。


今までにも、スターリン像、フセイン像などが倒壊撤去されたことがあるが、いずれも時代を象徴した歴史遺産である。人の目から人為的に消滅させたからと言って、その国が経験して来た歴史は拭いされるものではない。


ペルーのリマ中央郵便局建物の横に、大きくはないが青銅の精巧な銅像が建っている。中南米全域に侵略したフランシスコ・ピサロ像である。ペルーの人々からすれば歴史あるインカ帝国や祖国を滅亡した不倶戴天の人物であるが、何世紀にも亘って像は受け継がれている。像の前には毎日新しい花すら生け替えられている。これが、経て来た歴史を残す市民の良識である。


ベルギー・アントワープ市では、損傷されたレオポルド2世像を修復し、元の位置に戻すことなく博物館に保存すると言う。これもリマ市民と共通する歴史観と言うものだろう。




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