ハエと人間社会



社会の環境衛生が良くなったためか、最近は我々の周囲にハエを殆ど見なくなった。私の子供の頃は冬季以外、周りにはハエが飛び交っていた。町の鮮魚店の店先には「ハエ捕りリボン」が何本もブラ下げられており、我が家の食卓の場でも使われていた。食卓では良くハエが飛んで来たためだが、食べ物に留らない限りは飛ぶに任せていた。


宮本武蔵が食事中にハエが飛んで来たので、箸を使って空中で捕らまえたという逸話がある。ハエは遠い昔から人間と共存していたのである。そのハエが我々の前からすっかり姿を消した。環境衛生の改善とも言われるが、農薬を使い出したからとの説もある。事実、ウォーキングで農道を歩いていても、以前は小動物の死骸にハエが群がっている光景に良く出喰わしたが今は見ない。犬の散歩でフンを処理する社会道徳の向上も貢献している。


そのハエだが、世界の高度社会の先を行く米国で、こともあろうに大統領選の副大統領候補同士の討論会会場に現れて、討論中のペンス副大統領の頭に2分間程留っていたと聞いて驚いた。場所もソールトレイクのユタ大学講堂である。ハエが飛んで来る場所とは思えない。


BBCニュース(こちら)によると、討論会でハリス候補とペンス候補のどちらが勝ったのか『SNSでの人気では圧勝したのは両候補ではなく、1匹のハエだった』と報じている。『先週の史上最悪と言われた大統領候補同士の荒れた討論会に比べ、穏やかな口調の両候補の話だったが、一匹のハエが大勢を釘付けにした』ともある。


こんなハプニングが起こるとすかさず反応するのがユーモア精神豊かな米国社会である。早速ハリス候補と同じ陣営のバイデン候補が「蠅叩き」を手に持った写真をSNSに投稿して寄付を募り、「ハエに郵便投票を認めてはどうか」とツイート。トランプ陣営からは「ハエに似た盗聴器を仕掛けられた」とからかった。


実は4年前の大統領選の時、クリントン候補の頭にもハエが留ったことがあり、その時はクリントン候補が負けたので、今回はトランプ陣営の負けとの投稿もある。


いずれにせよ、世界中が注目する大統領選の討論会場にハエが飛んでくるとは、米国の環境衛生も良い加減なものである。