奇異に聞こえる“近江ことば”



地方には方言という伝統的な表現がある。我が滋賀県にも江州弁とか滋賀弁と呼ばれる表現がいくつかあるが、地理的に京都・大阪に隣接し、これらの地域と人的・文化的交流が密接なところから、京言葉・関西弁といわれる京阪方言と共通するところが多く、京都から滋賀に転入して来た私も言葉の表現で困ったことは殆どない。その中で、唯一違和感を覚える表現に「おく」というのがある。


滋賀県の方言でも、湖北や湖西のように地域性があると思われ、この「おく」という表現も湖南地方、それも限られた狭い地域でしか使われていないのかも知れない。というのは、私の住む守山以外では聞いたことがない言葉なのである。ウェブで調べた近江弁辞典でも「滋賀の方言一覧」でも出て来ないのである。


使い方は、「今回の旅行は“おく”ワ」とか「あの人は会員を“おく”と言っている」などに使われている。前後の脈絡から判断すれば“中止する”、“辞める”、“やめにする”などの意味らしい。守山生まれ・育ちの土着の人の間では抵抗なく使われている。


もう少し詳しく調べると、デジタル大辞泉に下記のような唯一の説明があった。


【おく(置・措・擱)】(三)の④項:

  やめにする、中止する、よす

  参考:浄瑠璃「夏祭浪花鑑(1745)

     「いらぬことじゃ、おけやい」、「いやぁおくわけにはいかない」


最初聞いた時は、何のことか判らなかったが、古くからこの地にいる知人や友人から平気で話しかけられて弱った。東京に転勤した時は数年で関東弁に慣れて一部自分も同化したが、この地に住んで20年を超えても滋賀弁の「おく」だけは使う気にならない。聞いても未だに奇異な気持ちになる。いかにも泥臭いニュアンスがあるからかも知れない。