孫の手



加齢と共に夜中に就眠中、背中が痒くなる頻度が多くなり、体が硬くなって手が届かずイライラすることが多い。そのため、いつもベッドサイドに「孫の手」を置いている。百円ショップで110円のシロモノである。齢と共に体が痒くなるのは乾燥肌の人に多いらしく、老人性乾皮症などの皮膚病の一種と言われる。バカに出来ない症状もあるという。


昔、ヒッチコックの映画に「裏窓」というのがあった。主人公のジェームス・スチュワートが片脚全体にギブスを着けて車椅子に座ったまま全編を過ごす役だが、ある時足先が痒くなってもギブスのために手が届かない。苦労をして車椅子を操作してなんとか「孫の手」を探し出し、患部を掻いてホッとする顔付きが絶妙の演技で観衆の笑いを誘った場面があった。


痒さを堪えて懸命になって「孫の手」を探し出す時の苦しそうな表情、掻いた後の安堵した表情など、米国の俳優は顔の表情を表す演技がなんとも優れている。ジェイムス・スチュワートは別のスペクタクル映画、「地上最大のショー」で終始、顔を真っ白に塗った道化師の役目で折角の美男子俳優が素顔を見せない演技が評判になった程、顔の表情の変化を見事に表す名優であった。


その「孫の手」だが、ジェームス・スチュワートが使っていたものは、日頃我々が使っているものと全く同じ形のもので、てっきりヒッチコックは日本には便利なものがあると、日本製のものを使ったと思っていたが、どうも間違いだったらしい。実は「孫の手」の起源は不明で、そのデザインは洋の東西に変わらないものが偶然に各地域で発生したものらしい。古代ローマには全く同じデザインで材料は象牙だったという記録がある。原始人は木の枝を切ってそのまま背中を搔いていたという説もある。昔から「痒いところに手が届かない」苦労があったらしい。


ただ、名称が日本の「孫の手」は孫が優しい手で掻いてくれる奥ゆかしい表現に対し、英語ではback-scratcher (背中掻き)など直接的な無粋な表現から、中国語では「美人の優しい爪」など聞くだけで痒みが取れる言葉まで色々あるらしい。


ジェームス・スチュワートが「裏窓」で使った孫の手は日本製ではなかったらしいのである。