今日読み終わった本-「ヘイト・スピーチとは何か」



『ヘイト・スピーチとは何か』 師岡康子 岩波新書

”ヘイト・スピーチ”とは、「憎悪表現」と訳されている。本書の冒頭では判り易く、京都朝鮮第一初級学校の校門前に、”在日特権を許さない市民の会(在特会)”が集団で押しかけて「朝鮮学校を日本から叩き出せぇ~」、「北朝鮮のスパイ学校」、「密入国の子孫やないか」、「お前ら半島帰ってウンコ喰っとけ」、「チョンコ」など大音響で街宣活動を行った例で説明している。

本書では、京都朝鮮学校襲撃事件だけでなく、東京の新大久保界隈、大阪の鶴橋駅周辺での街宣活動で収録された生々しい発言が数多く挙げられ、何故かかる運動が起るのか、在特会誕生の原因は何か、日本各地で類似の街宣事件を紹介している。

ヘイト・スピーチとは、その根底に人種・性別・職業などあらゆる種類の差別意識があり、在特会などの団体だけでなく、個人なかんずく国民・市民の代表者である公人まで及んでいる。その最たる代表例として、”差別の見本市”と言われる石原慎太郎元東京都知事が、中国・韓国・北朝鮮人を「第三国人」と表現したり、「文明がもたらした最も悪しき有害なものは、生殖能力を失ったババア」と言ったなど、発言した石原元知事も去ることながら、良くこれだけ石原語録を集めたと驚くほどの例を列挙している。

ただこの本は、こんな興味を魅くための話しの集積ではない。差別問題を広く取り上げ、その歴史的な根源は何か、先進諸国はこの問題にどんな立法措置をとり、どんな刑事罰を設定しているか、ヘイト・スピーチを防止するために、刑事罰だけでよいのかなどの問題提起を行っている。

同時に、欧州各国が植民地政策やナチスの犯罪に対する清算に真摯に向き合っているのに対し、大陸侵略の経験を持つ日本が、その清算には目をつむり、あまつさえその事実に蓋をしようとしている同じ姿勢が、差別問題に対しても見られていて、国際的にも批判を浴びている例を挙げている。

著者は弁護士なので、法律的な面から広くヘイト・スピーチ問題を論じており、文体も用語も難解な法例か学術的な表現で、腰をすえて行間を読む覚悟が必要である。簡単に目を通しただけで理解出来る本ではない。また、200ページ強のスペースに、ヘイト・スピーチの現状と問題点、その解決のための提案など密度濃い内容なので止むを得ないかもしれない。

ヘイト・スピーチと言えば、その根底が優越感とか憎悪という心理的・精神的な問題が原因となっているので、本来ならこの方面からの分析も必要と思われるが、本書では全く触れられておらず、法律的側面に限定されている。またその考え方も決して中立的なものでなく、多少というかかなり左がかったものだが、ヘイト・スピーチに関する入門書としては格好なものとして読んだ。





"今日読み終わった本-「ヘイト・スピーチとは何か」" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント