今日読み終わった本-「黒い画集」


『黒い画集』 松本清張  新潮文庫(2003年)

「遭難」、「天城越え」、「証言」、「凶器」、「寒流」、「紐」、「坂道の家」の7編の短編集である。短編と言っても、文庫本で200ページに近い中篇と言っても良いものも含まれる。

7編の内4編が、家庭というものがありながら、他の女にうつつを抜かした結果、その女のために身や家庭を崩壊に導く話で、元はと言えば男の身勝手から端を発したものの、女とは嘘つき、移り気、狡猾、貪欲な人間であると言いたげな作品が並んでいる。

大衆小説だけでなく、文学作品と言われる名作の中にも、洋の東西を問わずこのような視点から書かれたものが多く、小説の題材としては不倫問題や女の節操のなさ、狡猾さをテーマにしやすいものと見える。松本清張の作品の中にも結構頻繁に見られる。

その中で、「遭難」は男女問題とは関係なく山での遭難がテーマである。舞台は鹿島槍で、実際に同じ山を歩いた自分としては親近感を覚える設定である。清張が登山家だったかどうか知らないが、あたかも清張自身が実際に歩いたような迫真感がある。同じ会社の三人が鹿島槍の稜線を登攀中、悪天候の中で道に迷い、一人が疲労困憊して死亡した。誰が見ても事故死と思ったが、不審に思った親族の一人が当時のリーダーに事故現場への案内を依頼する。厳寒の鹿島槍だったが、リーダーは同意して同行する。親族はそのリーダーの犯行を暴いて追い詰めるが、ベテランのリーダーはその親族を巧みに崖の雪庇に誘いこんで滑落死させてしまうというどんでん返しのストーリーである。最後には悪人が笑って終わるというバルザックの小説のような終結で印象に残る。

物語の終結と言えば、清張の小説で犯人が逮捕されたり、殺されて終わるというスッキリした形で完結するものは少ない。大概は遠くからパトカーのサイレンが近づいてきて終わるとか、警官が容疑者の前に現れて終わる形式が多い。丁度映画「太陽がいっぱい」で、犯人のアランドロンが、自分を捕まえるために待機しているとは思わずに、警官隊の方に暢気な顔をして歩いて行くラストシーンと似ている。最後の結末は読者の想像に任せるというやり方である。

堅苦しい評論や解説本を読むのと並行して、松本清張の推理小説を読むと肩の荷が下りるような解放感を覚える。


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