馴染みの名物書店が閉店



京都の寺町二条に小さな書店がある。「三月書房」で昭和25年に開店したとあるから、私が小学校を卒業した年で丁度70年になる。常連客に京大の教授や学生、文学士や評論家など、どちらかと言えばインテリ層に人気の書店である。10坪ほどの昔ながらの狭い店舗にギッシリと新刊書が並ぶが、人気小説類は少なく専門書が多かった。この人気書店が近く閉店するとのニュースが出た。


三月書房は、私が勤務していた会社に月刊誌や専門書を届けていた。わざわざ自転車で届けに来てくれた上、新刊書でも5%引きで売ってくれた。私も社内の中央図書室から紹介して貰って毎月「文藝春秋」、研究社の月刊誌「英語研究」、NHKの「スペイン語講座」の配達を依頼した。夫々毎月の発売日が異なるのに、几帳面に発売日当日に私の席まで届けに来てくれた。社内の多くの部署の希望を気軽に受けて届けて回るので、殆ど毎日来社していた。技術系で守秘情報満載の社内は、外部からの受け入れは厳しい規則があったが、三月書房の配達員だけは顔パスで正面玄関の警備室を通過していた。


配達員はいつも同じ若い男でベレー帽姿の明るい気さくな人で、誰にも気軽に話しかけ、私の部署の若い女性社員の間でも人気者だった。配達先は私の勤務先と京都大学だけで精一杯と言っていた。今回、閉店報道には現在は三代目の店主で宍戸立夫氏とある。その時のベレー帽配達員はそんな名前だったような気がする。記事に掲載の写真を見ると何となく面影がある。


毎月配達してくれる「文藝春秋」には三月書房の濃い緑色のブックカバーがしてある。持ち歩いていても、常連客には直ぐ目に付くデザインである。ある時、三月書房と同じく教育関係者・学生に人気の「ふたば書房」がJR京都駅改装と同時に出店したので見物に行った。店主とおぼしき中老の男性がにこやかな顔をして、「失礼ですが、大学の先生ですか」と声をかけて来た。私が手にしていた三月書房の緑色のブックカバーを見て直感したという。三月書房はそれ程インテリ層には知れ渡った存在だった。


その名物書店が閉店する。京都に住んでいたら飛んで行って、それこそ宍戸主人が昔のベレー帽の兄ちゃんだったか確認したい思いだが、今や遠方でもあり外出自粛の折から果たせず、返す返すも心残りである。


参考:毎日新聞デジタル(こちら



"馴染みの名物書店が閉店" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント