自由な天地を求めて行き着いた先



中米カリブ海にハイチという国がある。陽気で明るい印象がある中南米ラテン諸国の殆どがスペイン語圏だが、ハイチの公用語はフランス語で近隣諸国とは異なった風土がある。我が国では女子テニスの大坂なおみ選手の父親の出身がハイチであることから俄かに知られる国となった。


場所はカリブ海最大の島、イスパニョーラ島の西半分を占め、東側のドミニカ共和国と隣接している。カリブ諸島の中では三番目に大きな国土を領有しているが、世界の中でも最貧国として知られ、輪をかけて今年7月には大統領が暗殺されて治安が極端に悪化し、追い打ちをかけるように8月にはマグニチュード7.2の大地震が発生、直後にハリケーン「グレース」の襲来を受け、国土は壊滅的な状態になった。


海外からの資金や物品の支援を受けているが、政治の腐敗で高官による浪費又は横領で無政府に近い状態となっている。生活が出来なくなった国民約12000人が大挙して本国を脱出、メキシコ経由で徒歩或いはバスを乗り継いで米国テキサス州に押し寄せ国境で難民申請を希望する長い列を作った。


米国はトランプ大統領の時には国籍の如何に関わらず不法入国として国境から追い返されたがバイデン大統領に替わってこの措置が緩和されたことも人々の一縷の希望となっている。国境から入った途端、人々の目の前に広がった光景は高層ビルや整備された道路、行き交う自動車など明るい自由な憧れの世界であった。


難民申請をした人々は、一旦収容所に入れられたが余りの人数の多さに収容しきれず、場所を移転して貰うと集められ、行先も告げられず飛行機に乗せられた。どこに向かうのか知らさられないまま航空機はテキサス州を離陸、送り届けられた先で胸を膨らませて降り立った時、目の前に広がった風景は誰もが見慣れた故国の首都ポルト・プランスだった。そこには、テキサスで見た自由の国の風景とは別世界の荒廃した姿が広がっていた。人々はその時に自国に強制送還させられ、住む家もない場所に放り出されたことを知ったのである。


人々の中には、2年前に難民として米国に入国許可され、小学校にも就学して英語に堪能になった少年がハイチ国籍というだけで送り返された人もいた。誰もが一様に、「バイデンもトランプ以下の人物」と叫んだのも無理はない。

出典:ワシントンポスト電子版